要点
- HRが1未満なら最初の群の発生率が低いことを示し、相対的な指標です。
- 同じHRでも、基準リスクによって1,000人あたり4件減ることも74件減ることもあります。
- HRはイベントがどれだけ早く起こるかを示さず、比が時間とともにおおむね一定だと仮定しています。
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ハザード比が示すもの
ハザード比(HR)は、追跡期間中にイベントがどれだけ速く起こるかを二つの群で比べる指標です。ハザードとは、まだそのイベントが起きていない人に、次の短い時間のうちにイベントが起こる確率のことです。コクラン・ハンドブックは、ハザード比を「ある時点で参加者がイベントを起こす可能性が何倍高いか(低いか)」を示すものと説明しています。HRが1なら差はなく、1未満なら最初の群の発生率が低く、1を超えれば高いことを意味します。
ハザード比が使われるのは、参加者ごとに追跡期間が異なり、全員にイベントが起こるわけではない研究です。途中で研究から離れた人や、イベントなしで研究終了を迎えた人は「打ち切り」として扱われますが、イベントのなかった期間は解析に含まれます。そのため、単純にイベント数を数えるのではなく、Coxモデルなどの生存時間解析が使われます。ハザード比は相対的な指標なので、それだけでは何人が利益を得たかはわかりません。
02
実際の試験でHR 0.80を順に読む
SELECT試験では、心血管疾患があり、過体重または肥満で、糖尿病のない成人17,604人が、週1回のセマグルチドかプラセボに無作為に割り付けられました。平均追跡期間は39.8か月です。主要評価項目(心血管死、非致死性心筋梗塞、非致死性脳卒中)は、セマグルチド群で8,803人中569人(6.5%)、プラセボ群で8,801人中701人(8.0%)に起こりました。報告されたハザード比は0.80、95%信頼区間は0.72〜0.90でした。
- 方向:0.80は1未満なので、セマグルチド群のほうがイベントの発生率が低かったことを示します。
- 相対的な大きさ:比がおおむね一定だったとすれば、追跡中のどの時点でも、まだイベントが起きていない人の発生率は約20%低かったことになります。
- 不確実性:信頼区間0.72〜0.90は、発生率の低下が約10%から28%の範囲であることと矛盾しません。区間に1は含まれていません。
- 絶対的な大きさ:イベントが起きた人の割合の差は、試験期間全体で1.5ポイントでした。単純な人数から計算すると、約3年間に67人が治療を受けるごとにイベントが約1件少なかったことになります。
最後の計算は単純な割合を使っており、追跡期間の違いを考慮していないため、試験が報告した数字ではなく、おおよその例として読んでください。大切なのは対比です。同じ結果が、相対的には「20%低い」、絶対的には「1.5ポイントの差」と表せます。どちらも正しく、判断には両方と害の情報が必要です。SELECTでは、有害事象のために試験薬を中止した人が、セマグルチド群で16.6%、プラセボ群で8.2%でした。
この節の出典: [3]
03
同じハザード比でも絶対的な効果は大きく変わる
ハザード比の背後にある絶対的な利益は、治療をしない場合にそのイベントがどれだけ起こりやすいかで決まります。下の表は、研究データではなく仮の基準リスクを使い、同じ追跡期間でHR 0.80が一定だと仮定して計算したものです。比例ハザードが成り立つ場合、治療群でイベントが起きない人の割合は、比較群の割合をハザード比で累乗した値になります。
| 治療なしのリスク | HR 0.80のときのリスク | 1,000人あたり減るイベント数 | リスク比 |
|---|---|---|---|
| 2% | 1.6% | 4 | 0.80 |
| 10% | 8.1% | 19 | 0.81 |
| 20% | 16.4% | 37 | 0.82 |
| 50% | 42.6% | 74 | 0.85 |
ここから二つのことがわかります。一つは、同じハザード比でも1,000人あたり4件減ることもあれば74件減ることもあるため、基準リスクと期間を必ず確認する必要があることです。もう一つは、イベントがまれなときはハザード比とリスク比がほぼ同じでも、イベントが多くなると離れていくことです。「リスクが20%低い」という言い方は近似にすぎず、イベントが多いほど不正確になります。
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ハザード比からはわからないこと
ハザード比は、イベントがどれだけ早く、あるいは遅く起こるかを示しません。Spruanceらは、同じハザード比でも中央値の時間の差が小さい場合も大きい場合もあることを示し、「2倍速い」といった表現に注意を促しました。時間が重要な場合は、中央値の時間、イベント曲線、決まった時点でイベントが起きた人の割合を確認しましょう。
一つのハザード比で結果をまとめるときは、追跡期間中に比がおおむね一定であるという比例ハザードの仮定を置いています。コクラン・ハンドブックはこれを単純化のための仮定と呼んでいます。治療の初期には害があり、後から利益が出る場合など、曲線が交差するときは一つの数字で全体像を見誤ることがあります。観察研究のハザード比は、測定された要因で調整した関連を示すもので、因果関係の証明ではありません。複合評価項目では、どの構成要素が結果を左右したかも確認しましょう。
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論文やニュースでハザード比を読むときのチェックリスト
研究や見出しでハザード比が出てきたら、次の質問を確認しましょう。答えの多くは、論文の要旨、結果の表、イベント曲線に書かれています。ニュース記事に数字がない場合は、元の論文を確認すると判断しやすくなります。
- イベントは正確には何で、単一の評価項目か複合評価項目か。
- 誰と誰を比べたのか。比較は無作為化されていたか。
- 各群のイベント発生率と追跡期間はどれくらいか。
- 信頼区間はどれくらいで、1を含むか。
- 絶対差はどれくらいで、治療なしではイベントがどれだけ起こりやすかったか。
- イベント曲線は一定の形で離れているか、それとも交差しているか。
- 利益と引き換えに、どのような害、費用、負担があったか。
情報源
- Chapter 6: Choosing effect measures and computing estimates of effect (Cochrane Handbook for Systematic Reviews of Interventions, version 6.5)Cochrane (Higgins, Li and Deeks, editors) · 2023出典確認日:
- Hazard ratio in clinical trialsAntimicrobial Agents and Chemotherapy (Spruance, Reid, Grace and Samore) · 2004出典確認日:
- Semaglutide and Cardiovascular Outcomes in Obesity without Diabetes (SELECT)New England Journal of Medicine (Lincoff and colleagues) · 2023出典確認日:
改訂履歴
- 自動化支援により英語・スペイン語・日本語の初稿を作成しました。記事全体について、引用した情報源を2026-10-23T03:14:20Z(UTC)に確認し、例の計算は試験で公表された人数から計算し直しました。基準リスクの表は仮の例です。公開・作成には現在の日時を用い、過去の公開日は設定していません。独立した統計・臨床レビューの記録はありません。